民事訴訟(1)
1 民事訴訟について
裁判所における訴訟手続を利用した請求は、司法機関を介しますので滞納者に対する圧力は強くなります。また、裁判所から出される判決は、債務名義としてその後の強制執行に活用することができます。
民事訴訟法133条は、こうした訴えを提起する方法を定めていますが、訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならず(1項)、この訴状には、①当事者及び法定代理人②請求の趣旨及び原因を記載する必要があります(2項)。
なお、簡易裁判所では訴状の提出によらず、口頭で訴えを提起することが可能とされていますが、実際に口頭による訴えの提起がなされることは希なことのようです。
2 訴訟の類型
(1)少額訴訟(簡易裁判所)
訴額が60万円以下なら、公示送達となる可能性も考慮しつつ(少額訴訟では、公示送達はできないため、滞納者が行方不明で送達先が明らかでないときは、通常訴訟が無難。)少額訴訟を提起しましょう。但し、少額訴訟は同一の管理組合が同一の簡易裁判所で利用可能な回数は年10回までです。また、被告が通常訴訟への移行を希望する申述をしたなら、通常訴訟へ移行することがあります。
少額訴訟の訴状には、請求の趣旨の前に「本件につき、少額訴訟による審理及び裁判を求める。原告が御庁において、本年、少額訴訟による審理及び裁判を求めた回数は、1回である。」との少額訴訟に関する申述を記載することになります。
(2)通常訴訟(簡易裁判所・地方裁判所)
訴額140万円以内なら簡易裁判所、140万円を超過する場合には地方裁判所における通常訴訟となります。同一の管理組合において、複数の区分所有建物に関する滞納管理費等を共同訴訟により請求することも可能ですが、被告の対応等が異なったりするので個別的に訴訟を提起する方が無難です。
簡易裁判所における訴訟では、被告が出廷した場合には、裁判所が用意した司法委員を交えて原告被告間で話し合いが行われ、和解で終了するケースが多いです。
3 訴訟の当事者
(1)当事者とは
まず、訴訟を提起するためには、事件の当事者として訴訟を追行し、判決などの名宛人となることにより、有効に紛争を解決することが可能な地位を有す必要がありますが、こうした地位のことを当事者適格といいます。なお、原告についての当事者適格のことを原告適格といい、被告についての当事者適格のことを被告適格といいます。
そして、管理費等の請求のように滞納金の給付を求める「訴えにおいては、自らが その給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格がある。」(最判平成23
年2月15日判時2110-40)とされています。 よって、滞納された管理費等の請求権を有している管理組合には、この請求訴訟における当事者適格を有していることになります。
(2)原告(請求権者)
①管理組合
・管理組合法人
訴訟における一般的な資格といえる当事者能力は、自然人と法人が有することになります。ですから、法人格を有している管理組合は、管理組合名で訴訟における判決の名宛人となることができるため、当然に原告として訴訟を提起することができます。
・法人でない管理組合
法人でない管理組合については、当事者能力が問題となりますが、民事訴訟法第29条は、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。」と定めています。よって、法人でない管理組合についても、権利能力なき社団として原告として当事者になることができるのです。
法人でない管理組合が、「権利能力なき社団」に該当するか否かについては以下の判例が参考になります。
最判昭和39年10月15日
「権利能力のない社団といいうるためには、団体として組織をそなえそこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」
この判旨に従えば、法人でない管理組合についても、管理規約に理事会等の組織、構成員の多数決の原則により理事長の選任・規約変更・管理費等の額の決定がなされる旨の定めがあるなら、当然に権利能力のない社団に該当するので、訴訟における当事者能力も有していることになります。
②管理者
管理者(通常は、管理組合の理事長)が単独で当事者となることもできます(建物区分所有権に関する法律26条4項)。管理者が、原告として訴えを提起することにつき規約または集会で決まっていることが前提です。つまり、管理規約に、「理事長は区分所有法に定める管理者とする。」との趣旨の条項がある場合、理事長は、区分所有法上の「管理者」という立場にもることになります。そうすると、管理者は、いわゆる訴訟担当(区分訴訟法が認めた任意的訴訟担当と解されています。)として、区分所有者のために原告になることもできるのです(区分所有法26条4項)。この場合、裁判所へ規約または集会の議事録を提出する必要があります(民事訴訟規則15条)。
(3)被告(請求の相手)
①区分所有者
管理費・修繕積立金等を滞納している区分所有者(自然人、法人)が被告となります。
②共有者
管理費・修繕積立金等が滞納されている区分所有建物が、共有物件となっている場合、滞納債権は不可分債権となりますから、共有者間の持分に関係なく共有者全員に対して滞納管理費等の全額を請求することが可能です。
参考裁判例(東京高判平成20年5月28日)
「区分所有者がマンション共有部分の管理費等の負担を負うのは専有部分に通じる廊下,階段室等のマンション共有部分が,その有する専有部分の使用収益に不可欠なものであるということに由来するものと考えられるところ,区分所有権を共有する者は,廊下,階段室等のマンション共有部分の維持管理がされることによって共同不可分の利益(専有部分の使用収益が可能になること及びその価値の維持)を得ることができるのである。そうすると,区分所有権を共有する者が負う管理費等の支払債務は,これを性質上の不可分債務ととらえるのが相当である。」
③特定承継人
区分所有法第8条は、「前条第1項に規定する債権は、債権者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」と定めています。なお、前所有者と特定承継人の間における債務の関係は不真正連帯債務になります。
※特定承継人とは、売買等により財物を取得した者のことを示します。
④包括承継人(相続人)
相続の一般的効力として民法第896条本文は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と定めています。したがって、区分所有権者が管理費等を滞納して亡くなった場合には、その法定相続人に対して請求することができます。
ただし、法定相続人が民法第938条で定める相続放棄をしていた場合には、民法第939条により、当該相続人は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされるので、この相続放棄した相続人に対しては被相続人が滞納した管理費等の支払いを請求することができません。
⑤中間取得者
Aが管理費等を滞納したまま、区分所有権がBを経てCに移転した場合、Aの債務はAやCばかりでなくBに対しても請求することが可能か?
可能とする裁判例がある一方、それを否定する裁判例もございます。しかし、現所有者が存在する場合に、中間取得者から債務名義を取得する意義は薄いでしょう。
4 訴訟における請求について
(1)管理費等滞納の法的性質
管理費や修繕積立金は、管理規約によって区分所有者に課された支払義務ですから、区分所有者がこれらの支払を怠ることは民法415条で定められた債務不履行に該当すると考えられています。したがいまして、訴訟においては、滞納者に対してこの債務不履行責任を求めることになります。
(2)訴訟物
裁判所が存否を審理・判断すべき権利ないし法律関係を訴訟物と言いますが、このように管理規約で定められた管理費や修繕積立金の支払義務を果たさない区分所有権者に対してこれらの債権を請求するわけですから、管理規約に基づく管理費等の支払請求権が訴訟物となります。そして、訴状には訴訟物の価額(訴額)として滞納されている管理費や修繕積立金の元本部分に該当する金額を記載することになります。訴訟物の価額に遅延損害金は含まれず、これは附帯請求となります。
(3)請求の趣旨
請求の趣旨とは、訴訟における原告の主張の結論となる部分であり、訴えをもって審判を求める請求の表示を意味しますが、原則として、原告が勝訴した場合の訴訟物についてされる判決の主文に相当するものです。管理費等の請求のように給付請求の場合、民事執行法による強制執行により実現されるべき被告の義務を明らかにするものといえます。
この請求の趣旨については、法的性質や理由付けを記載してしまうと、執行の際に執行機関が、その法的性質や理由付けの存否を確認しなければならなくなり、迅速に執行を行うことができなくなります。このような執行法上の制約から、請求の趣旨には法的性質や理由付けは記載しないことになっています。
具体的には、滞納されている管理費や修繕積立金等の総額(訴額)と、それに対する遅延損害金(利率を記載する)の支払を被告に請求することを記載します。
(4)請求原因
訴訟物である権利または法律関係を発生させるために必要な最小限の事実を請求原因といいます。管理費等の請求訴訟においては、滞納されている管理費等の支払請求権を発生させるために必要十分な事実を請求原因として訴状に記載する必要があります。概ね以下のことを記載すれば足ります。
①当事者
原告が管理費や修繕積立金の請求権者であること、つまりマンションの管理組合であること、そして、管理費や修繕積立金は、管理組合の組合員である区分所有者に支払義務があるわけですから、滞納に係る区分所有建物を被告が所有していることを当事者の項目に記載します。
②支払義務の存在
管理費や修繕積立金の支払い義務を定めた管理規約上の根拠条項を指摘した上で、これらの月額を決定した総会の議案書及び議事録を明示して、管理費や修繕積立金の支払義務が存在することを記載します。
また、遅延損害金についても根拠となる管理規約の条項を指摘して、管理費や修繕積立金を滞納している者に支払義務が発生することを記載します。
③滞納の事実
期間を明示して、被告が、管理規約に反して管理費や修繕積立金を滞納している事実を記載します。
5 その他訴状等に記載すること
(1)証拠方法
原告が裁判所に対して提出(被告にも送達される)する証拠を甲号証(被告が提出すのは乙号証)といいますが、提出した甲号証の標目を「証拠方法」として記載します。
(2)添付書類
甲号証や原告としての管理組合の代表者の資格証明書など、訴状にいかなる書面を添付したのか示すため「添付書類」としてこれらの書面の標目を記載します。
(3)物件目録
管理費や修繕積立金が滞納されている区分所有建物を特定するために、不動産登記簿謄本に記載されているとおり、別紙物件目録に記載します。
→少額訴訟の訴状書式(記載例)はこちら
→通常訴訟の訴状書式(記載例)はこちら
6 訴え提起時に簡易裁判所に提出するもの
①訴状(正本と被告人数分の副本)
滞納計算書を添付します。訴状の下部中央に頁数を記載するか各頁間に契印を施し、各頁の上部中央に捨印を押します。正本をコピーして、控とします。訴状の例文はこちらです。
②訴訟委任状(弁護士・司法書士に委任する場合)
③資格証明書(管理組合が法人の場合は法人登記簿謄本。法人でない場合は理事長の資格を管理組合の役員が証明した書面、理事長を選任した総会議事録及び根拠となる規定を定めた管理規約を添付する。)
④滞納が発生している区分所有建物の不動産登記簿謄本の原本
⑤証拠(甲号証として正本に加えて被告の人数分の副本を用意する。)
例)
甲第1号証 不動産登記簿謄本
甲第2号証 管理規約(管理費等・遅延損害金・司法書士費用請求の根拠規定)
甲第3号証 総会議案書及び議事録(管理費等の金額の根拠)
※相続が発生している場合には、相続関係説明図と戸籍、改製原戸籍、除籍及び除住民票等
⑥印紙
訴額に応じて下記の表のとおりです。
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訴えの提起
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支払督促
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10万円まで
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1,000円
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500円
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20万円まで
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2,000円
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1,000円
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30万円まで
|
3,000円
|
1,500円
|
40万円まで
|
4,000円
|
2,000円
|
50万円まで
|
5,000円
|
2,500円
|
60万円まで
|
6,000円
|
3,000円
|
70万円まで
|
7,000円
|
3,500円
|
80万円まで
|
8,000円
|
4,000円
|
90万円まで
|
9,000円
|
4,500円
|
100万円まで
|
10,000円
|
5,000円
|
120万円まで
|
11,000円
|
5,500円
|
140万円まで
|
12,000円
|
6,000円
|
160万円まで
|
13,000円
|
6,500円
|
180万円まで
|
14,000円
|
7,000円
|
200万円まで
|
15,000円
|
7,500円
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⑦予納郵券
東京簡裁の通常訴訟の場合、被告1人目は5,6000円
内訳
500円
|
100円
|
80円
|
50円
|
20円
|
10円
|
8枚
|
8枚
|
5枚
|
5枚
|
5枚
|
5枚
|
4000円
|
800円
|
400円
|
250円
|
100円
|
50円
|
2人目以降、被告が1人増えるごとに2,200円(500円4枚、100円2枚)分ずつ加算する。
東京簡裁の少額訴訟については、1人目3,910円(500円8枚、100円7枚、80円3枚、20円6枚・10円5枚)。基本的に東京簡裁の地下売店でセットとなって売られています。
なお、裁判所によって内訳は異なりますから、他の裁判所については、内訳等を書記官に確認して下さい。
7 期日指定
訴えが受け付けられると、担当する係の書記官から期日に関する案内が電話であるため、期日請書を作成し、FAXで送信して下さい。
→期日請書の書式はこちら
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