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マンションの法律問題は「マンションの問題」で解決

管理費請求の具体的手続10detail

区分所有法第59条に基づく競売請求

1 区分所有法59条に基づく競売の趣旨

 管理費等を滞納しながら、抵当権のついている住宅ローンだけは返済を続けている場合には、抵当権者による不動産競売申立は期待できませんし、管理組合が先取特権や取得した判決等の債務名義に基づき不動産競売申立を行ったとしてもこのマンションの価値以上の住宅ローン債務が残存すれば(オーバーローン)民事執行法第63条第2項の無剰余取消の制度により、競売手続は取り消されてしまします。
 そこで、管理組合が、そもそも暴力団等を排除することを念頭においた区分所有法第59条の「区分所有権の競売の請求」所定の競売請求をして、納税者を強制的に排除することが考慮されたわけです。この競売手続で新たな区分所有者が現れたなら、この者を特定承継人として滞納された管理費等を請求できるからです。
 そして、東京高裁決定16年5月20日は、区分所有法第59条「区分所有権の競売の請求」に基づく競売請求において、無剰余取消制度は適用されないことを明確にし、これにより、区分所有法第59条による競売申立はオーバーローンの状態においても申立可能と解されるに至ったのです。

区分所有法
(区分所有権の競売の請求)
第五十九条 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3 第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。 

2 区分所有法59条に基づく競売申立の要件

 まず、区分所有法59条に基づく競売請求が認められるための要件を簡潔にまとめると、以下のとおりです。
@ 区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと
A 区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと
B 他の方法によっては区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること
C 集会の決議
 以下、@〜Cの各要件をそれぞれ検討します。

3 @区分所有者の共同の利益に反する行為をしたことに係る要件

 区分所有者は、各自が区分所有する部分(専用部分)につき、自由に使用・収益・処分することができますが、「区分所有者の共同の利益に反する行為」はできないと定められています(区分所有法第6条)。
 それでは、問題となる管理費等を滞納したことが、「@区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと」に該当するのでしょうか。
 東京地判平18年6月27日によると、「一部の区分所有者が管理費等の支払をしない場合、その区分所有者は他の区分所有者の負担で共同使用施設等を利用することになる。このような事態は他の区分所有者の迷惑となることは明白であり、区分所有者の間で不公平感が生じ、管理費等の支払を拒む者が他にも現れることが予測され、最終的には、マンション等共同住宅全体の維持管理が困難となるものと考えられる。」として、上記@に該当するとしています。したがって、管理費等の滞納の場合でも、上記@に該当する可能性はあるといえます。

4 A区分所有者の共同生活上の障害が著しいことに係る要件

 次に、管理費等の滞納が上記@に該当するとしても、「A区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと」が認められなければなりません。区分所有法59条に基づく競売請求は、その区分所有者の区分所有権等を強制に剥奪するものであることから、(上記Bと併せて)一定のハードルが課せられているのです。
 そのため、数ヶ月程度の管理費等の滞納でなく、ある程度継続した滞納であることが必要です。しかし、管理費等の債権は5年で時効になりますから(判例)それほどの長期でなくてもよいでしょう。裁判例の中には、滞納期間や滞納額からみてこの要件が欠けるとし、請求を認めなかったものがあります。

5 B他の方法によっては困難であることに係る要件

 ここでいう「他の方法」とは、区分所有法59条の競売請求以外の民事上の方法(区分所有法57条、58条の請求や区分所有法7条に基づく先取特権の実行としての専有部分の競売等)をいい、それ以外の方法(例えば告発(刑訴230条)、告発(刑訴239条)等)は含まないと解されています。
 この点、裁判例によると、具体的には、滞納管理費等に係る『支払督促の申立て』、『訴訟の提起』、『先取特権の実行』、滞納者の財産に対する『強制執行』、『和解の可能性』の有無等の要素が考慮されています。また、管理費等滞納のケースにおいて、区分所有法58条の専有部分使用禁止請求が「他の方法」に含まれるかについては、大阪高判平14年5月16日が、管理費等の滞納と専有部分の使用禁止(区分所有法58条)とは関連性がないことを判示しているため、否定に解すべきです。

6 C集会の決議に係る要件

区分所有法59条に基づく競売請求をなすためには、管理組合内部の手続的要件として、管理組合の集会決議(区分所有者及び議決権の3/4以上)を経る必要があります。また、この決議する際には、滞納者に弁明の機会を与える必要があります。

7 まとめ

 このように、区分所有法59条に基づく競売請求は、強制的にその区分所有者の区分所有権等を剥奪するという強力な効果を生じさせるため、要件に一定のハードルが設けられています。そのため、上記@〜Cの要件に該当するか否かについては、詳細にその事案を分析したうえで、場合によっては、綿密な計画を立てることが必要となりますが、管理組合としては少なくとも通常訴訟の提起とその債務名義に基づく強制執行の手続を行っておくことが必要かと思われます。

8 手続の流れ

  滞納管理費に関して債務名義(確定した仮執行宣言付き支払督促,(少額)訴訟の確定判決)を取る

   ↓

  強制執行手続(無剰余取消)

   ↓

  集会召集(59条競売請求を行う旨の決議)

   ↓

  59条競売請求の訴訟提起(地方裁判所)
  →訴状の書式はこちら

   ↓

  訴訟追行

   ↓

  判決言渡

   ↓(相手方の対応により,控訴審等の上級審を経る場合があります)

  不動産競売申立

   ↓(予納金100万円程度の納付。余った額は後に返還されます)

  競売開始決定

   ↓

  売却実施決定

   ↓

  開札期日実施

   ↓

  競落人の決定

   ↓

  売却代金納付日

   ↓

  配当期日(ここでようやく管理組合が滞納管理費等について配当を受けることができます)

   ↓

  予納金の残余額の返還

滞納管理費に関して債務名義を取る手続は,全体で約1ヶ月〜1年程度の期間がかかります(採用する手続の種類や相手方の対応等で変化します)。
 競売手続の申立から配当期日に実際に滞納管理費等を回収するまでには,約1〜1年半程度の期間がかかります。


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