区分所有法第7条は、管理費について先取特権による特別の保護を与えています。この先取特権により、支払督促や訴訟等により債務名義を取得することなく、いきなり競売を申し立てることで、滞納者のマンション又はマンションに備え付けられた家財道具等の動産から、他の債権者に優先して弁済を受けることができます。
この先取特権に基づく競売請求は、先取特権を証する書面(管理費等を定めた規約・総会議事録・滞納計算書等)等により、管轄(又は、合意)地方裁判所に対して行なうことになりますが、まず、滞納者所有の専有部分内に備え付けた動産から競売請求する必要があります(民法第335条)(動産執行では、明らかに弁済が受けられない場合には、最初から、不動産を対象とした先取特権を実行できます。)。
なお、先取特権の対象とされる「建物に備え付けた動産」のうち、区分所有者等の生活に欠かすことのできない衣類・寝具・家具・台所用具などは差押が禁止されていて、これらを競売することによって滞納管理費を回収することはできません(民事執行法第131条)。
ところで、マンションの購入資金は住宅ローンの融資で賄われていることが多いことは周知のことですが、こうした場合にはマンションに、住宅ローン債権を担保する金融機関名義の抵当権が設定されており、先取特権はこのような担保権には劣後します(民法第336条)。したがって、マンションの価値と同等ないしそれを上回る残存債権が存在した場合には、仮に、管理組合が先取特権に基づいてマンションに対する競売の申立を行ったとしても、配当される剰余金が存在しないため、競売の開始決定は取り消されてしまいます(民事執行法第63条第2項)。そもそも、管理費が滞納されている状況にあっては、住宅ローン債務が残存ないし延滞されていることが多いので、先取特権に基づく不動産の差押は現実的にさほど有効性が高いものとはいえないのです。
区分所有法第7条
(先取特権)
第1項 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
第2項 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
第3項 民法(明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条の規定は、第一項の先取特権に準用する。